家計と食のはなし食費を相対で見る・第1回

エンゲル係数が高い=生活が苦しい?
― 数字が語らない「家計の重心」

2024年、エンゲル係数が43年ぶりの高い水準になりました。「食費の割合が高い=生活が苦しい」とよく説明されます。でも、その読み方だけで本当にいいのでしょうか。実は、同じ高い数字でも意味が真逆になることがあります。今回は、自分の家計の数字を読み解く視点までお話しします。

はじめに、エンゲル係数とは

エンゲル係数は「食料費 ÷ 消費支出 × 100」で求める、家計の消費支出に占める食料費の割合です。19世紀の統計学者エンゲルが、所得が高いほどこの割合が下がる傾向を見いだしたことから「エンゲルの法則」と呼ばれます。最新のデータを見てみましょう。

  • 2024年の二人以上世帯(平均)28.3%
  • 所得が最も低い階級(平均年収217万円)33.8%
  • 所得が最も高い階級(平均年収1,496万円)23.9%
  • 世帯主34歳以下 / 65歳以上26.5% / 30.4%

2024年は28.3%で、前年から0.5ポイント上がりました(総務省)。報道では1981年以来の高い水準と整理されています。所得が低い階級ほど高く、高い階級ほど低い――たしかに法則どおりで、ここだけ見れば「割合が高い=余裕がない」と読めます。

「割合」だから、分母でも動く

エンゲル係数は割合です。割合は、分子(食料費)が大きいときだけでなく、分母(消費支出全体)が小さいときにも上がります。「高い=苦しい」という読み方は、分母が小さい理由を「食費以外に回すお金がない=我慢の結果」と、暗黙に決めつけているのです。 同じ「エンゲル係数が高い」でも… 制約型 他に回す余裕がない その他支出 食料費 =余裕のなさ 選択型 欲しい物が少なく、食を厚く その他支出 食料費 =価値観・優先順位 ≒ 割合(数字)は同じでも、意味は真逆になりうる

食料費の割合が同じでも、その背景が「我慢」なのか「選択」なのかを、数字は区別できません。

同じ数字、異なる物語

たとえば、家計に余裕があるから食費が高いのではなく、選択的に食費が高くなっている世帯があります。物欲が控えめで、その分を毎日の食事に寄せている家計です。さらに、酒や菓子類といった嗜好品をあまり買わない世帯もあります。外食や高級食材で割合を押し上げているのではなく、日々の食材を選んで家で料理している――そんな家計です。

この場合、エンゲル係数が高くても「苦しい」わけではありません。かといって「贅沢」でもない。必需の範囲で質を選び取っている、いわば第三の家計です。世間がよく使う「苦しい」か「贅沢」かという2つのものさしは、どちらもここをすり抜けてしまいます。

◎ 押さえておきたいこと

エンゲル係数は、食費が不本意に膨らんでいる家計を想定した読み方が一般的です。でも、食費を選んで重くしている家計に当てはめると、同じ数字でも意味は逆になります。

とはいえ、公平に見ると

誠実に書くなら、ここは外せません。集団全体で見れば、エンゲル係数の上昇の背景には食料価格の上昇があります。総務省の集計でも、2024年は食料への支出が名目で増えた一方、野菜・果物などの値上がりが目立ったことが示されています。さらに、実質賃金の伸び悩みも要因として指摘する民間シンクタンクの分析もあります。多くの世帯にとって「余裕のなさ」という読み方は、今まさに当てはまっています。

つまり選択型の家計は、「エンゲルの法則が間違っている」という証拠ではありません。そうではなく、集団の平均を、個々の家計の“通信簿”として使うと意味が壊れるという話です。統計としては正しくても、一軒の家計の診断にそのまま当てるのは無理がある、ということですね。

では、自分の数字をどう読むか

自分の家計のエンゲル係数が高めだったとき、それが「苦しい」のか「選んでいる」のかを見分ける補助線を4つ。割合だけでなく、次を一緒に並べてみてください。

家計の“重心”を読む4つの補助線

  • 実額(円)で見る 割合ではなく食料費そのものの金額。少ない実額で割合が高いなら、分母が小さいサイン。
  • 中身を見る 家庭での調理が中心か、外食・嗜好品・高級食材が多いか。重心の置き場所が分かる。
  • 貯蓄の余地 毎月いくらか残せているか。残せているなら「苦しさ」とは違う。
  • 制約か、選択か 他の費目が低いのは、回せないからか、そもそも欲しくないからか。

この4つを重ねると、同じ「割合が高い」でも、苦しい家計/贅沢な家計/選んで食に寄せた家計が、くっきり分かれて見えてきます。

このシリーズの続き

▶ 第2回:食料費の“中身”を割合で見る(外食・中食・嗜好品)▶ 第3回:削れる支出・削れない支出という分け方

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エンゲル係数は、家計の重心がどこにあるかを映してくれる便利な数字です。けれど、その重さが我慢の結果なのか、選択の結果なのかまでは語ってくれません。そこを読み解くのは、平均ではなく、あなた自身の家計です。次回は、食料費の「中身」を割合で分解していきます。

出典:エンゲル係数28.3%(前年比+0.5ポイント)および食料費の動き(名目増・野菜や果物の値上がりなど)は、総務省統計局「家計調査報告(家計収支編)2024年(令和6年)平均結果の概要」による。所得階級別・世帯主年齢階級別のエンゲル係数は、同調査の詳細結果(e-Stat)にもとづく値。1981年以来の高水準という長期比較は各種報道による整理。上昇要因のうち実質賃金の伸び悩みに関する指摘は、民間シンクタンク(第一生命経済研究所・ニッセイ基礎研究所など)の分析にもとづく。

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