「食費」には、削れる分と削れない分がある
― 必需と選択の境界線
第1回は食費の割合(エンゲル係数)、第2回は食費の中身を見てきました。今回は、総務省が家計の支出に引いている「必需と選択の境界線」をのぞいてみます。実は「食費」は、削りにくい必需の支出と、選んでいる選択の支出が混ざっています。その線を知ると、家計の見直しが「我慢」ではなく「選択」になります。
総務省の「ものさし」=支出弾力性
家計調査では、すべての支出項目を、ある数値で2つに分けています。それが支出弾力性です。これは「消費支出の総額が1%増えたとき、その項目が何%増えるか」を示す数字です。生活に欠かせないものは、家計に余裕が出てもそれほど増えません。逆に、選べる楽しみは、余裕が出ると大きく増えます。その増え方の違いで、線を引いているのです。 基礎的支出 (必需品的・削りにくい) 選択的支出 (贅沢品的・選べる) 支出弾力性 小(必需) ← 1.00 → 大(選択) 米・野菜・家賃・電気代 ワイン・ケーキ・宿泊料・外食
支出弾力性が1.00未満なら基礎的支出、1.00以上なら選択的支出に分類される。
総務省の分類では、支出弾力性が1.00未満のものが基礎的支出(必需品的)で、米や野菜、家賃、電気代などが当てはまります。1.00以上のものが選択的支出(贅沢品的)で、ワインやケーキ、宿泊料などが入ります。
同じ「食料」でも、線の両側にまたがる
面白いのはここです。「食料」はまとめて必需に見えますが、中身を見ると境界線の両側にまたがっています。米や野菜は基礎的支出(必需)。一方で、ワイン(酒類)やケーキ(菓子類)は選択的支出に分類されます。さらに外食は、食料費とは別の動きをする選べる支出です。
必需に近い(基礎的)
米・穀類/野菜/肉・魚/卵・乳製品/調味料
=第2回でいう「素材」
選択に近い(選択的)
酒類/菓子類/外食/一部の飲料
=第2回でいう「嗜好品・外食・中食」
第2回で分けた「素材/嗜好品/外食」というグループは、実は総務省の必需・選択の線とほぼ重なります。直感で分けた中身が、公式のものさしとも対応しているわけです。
◎ だから「食費が高い」も一様ではない
食費が高いとき、それが必需(素材)が重いのか、選択(酒・菓子・外食)が重いのかで、意味はまったく違います。前者は削りにくく、後者は選び直せる部分です。
家計全体では、半分近くが「選べる支出」
視野を食費から家計全体に広げると、現代の暮らしの特徴が見えてきます。ある集計(2023年・二人以上の勤労者世帯)では、消費支出のうち基礎的支出が約53%、選択的支出が約47%を占めていました。生活の維持に必須ではないけれど、便利さや心の豊かさのために選ぶ支出が、家計の半分近くにまで育っているのです。だからこそ、どこが「選べる支出」なのかを知ることに意味があります。
自分の食費に線を引いてみる
第2回で出した4つの仕分け(素材・外食・中食・嗜好品)を、必需と選択に振り分けてみてください。素材は「削りにくい分」、外食・中食・嗜好品は「選んでいる分」です。こうして削れない分と選んでいる分が見えると、家計の見直しは「とにかく食費を切り詰める」ではなく、「選んでいる分のどこを大事にするか」という前向きな選択に変わります。
線を引くと、こう変わる
×「食費が高いから我慢して減らす」
○「削れない素材は守り、選んでいる分の優先順位を自分で決める」
このシリーズ
「食費」はひとかたまりではなく、削れない必需と、選んでいる選択が混ざり合ったものです。総務省はそれを支出弾力性という数字で線引きしています。自分の食費にもこの線を引くと、守る部分と選ぶ部分が見えてきます。最終回は、この「必需と選択」をさらに進めて、経済学が「贅沢」をどう定義しているのかを見ていきます。
出典:支出弾力性の定義(消費支出総額が1%変化する時に各支出項目が何%変化するか)および基礎的支出・選択的支出の分類(1.00未満=基礎的支出、1.00以上=選択的支出。米・野菜・家賃・電気代/ワイン・ケーキ・宿泊料などの該当例を含む)は、総務省統計局「家計調査 用語の解説」「支出弾力性の計算方法及び基礎的・選択的支出の格付方法について」による。基礎的支出・選択的支出のおおよその割合(2023年・二人以上の勤労者世帯で約53%/約47%)は、家計調査(2023年)をもとにした生命保険文化センターの集計による。

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