食べ過ぎの経済的損失、日本全体では1兆円超——特定保健指導という制度を知っていますか

「食べ過ぎ」は個人の問題だと思われがちです。でも、その積み重ねが社会全体の医療費にどれほどの影響を与えているか、具体的な数字で見ると少し驚くかもしれません。今回は、メタボリックシンドロームと医療費の関係を、社会全体の視点から整理します。

メタボ該当者・予備群は、日本に何人いるか

特定健康診査(いわゆる「特定健診」)は、40〜74歳を対象にメタボのリスクを調べるための健診です。2022年度の受診者は約3,017万人。このうちメタボに該当する方や予備群と判定された方は、全国で相当数にのぼります。

さらに、健診を受けていない方も含めると、実態はより大きくなります。特定健診の受診率自体がまだ58.1%にとどまっているためです。

5,192万人

特定健診の対象者数

58.1%

受診率(2022年度)

512万人

特定保健指導の対象者数

特定健診を受けた方のうち、約17%が特定保健指導の対象と判定されています。これはメタボ該当者・予備群として、生活習慣の改善サポートが必要とされる方の数です。

特定保健指導とは何か

特定保健指導は、メタボ該当者や予備群と判定された方に、保健師や管理栄養士が食事・運動・生活習慣の改善をサポートする公的な制度です。2008年度にスタートし、すべての保険者(健康保険組合・協会けんぽ・市町村国保など)に実施が義務づけられています。

① 特定健診を受ける(40〜74歳が対象)

② 結果によって「動機付け支援」または「積極的支援」に振り分けられる

③ 保健師・管理栄養士による面談・継続サポートを受ける

④ 3〜6ヶ月後に腹囲・体重などを評価して完了

2024年度からは「アウトカム評価」が導入され、腹囲2cm・体重2kg減を達成すれば、面談の回数にかかわらず指導が完了とみなされるようになりました。より実態に即した制度に変わっています。

512万人のうち、受けているのは4人に1人

ここで気になる数字があります。特定保健指導の対象者は約512万人いるにもかかわらず、実際に指導を完了した方は約135万人。実施率は26.5%です。

約377万人

対象になっても指導を受けなかった方(2022年度)

「忙しくて時間が取れない」「自分はまだ大丈夫だと思った」「何をするのかわからなかった」——理由はさまざまでしょう。ただ、受けなかった方の多くが、そのまま生活習慣病のリスクを抱え続けることになります。

全員が「脱メタボ」したら、医療費はどう変わるか

第一生命経済研究所の試算によると、メタボ該当者・予備群が全員メタボから脱出できた場合、国全体で年間約1兆1,500億円の医療費が抑制できる可能性があるとされています。

約1兆1,500億円

脱メタボで抑制できる可能性がある医療費(年間・国全体の試算)

もちろんこれは「全員が改善した場合」という最大値の試算であり、現実にはそう単純ではありません。ただし、この数字が示すのは、食べ過ぎや運動不足の積み重ねが、いかに大きな社会的コストになっているかという事実です。

医療費全体の約2割は生活習慣病関連とされています。個人の食べ方の選択が、社会全体の医療費と無関係ではないということです。

制度はある。あとは「使う」かどうか

特定保健指導は、すでに仕組みとして存在しています。費用も、被保険者本人は多くの場合ゼロ負担で受けられます。薬を処方されるわけでも、入院が必要なわけでもありません。専門家と一緒に、今の食事や生活習慣を整理するための時間です。

それでも実施率が26.5%にとどまっているのは、制度の存在自体が十分に知られていないことも一因かもしれません。健診結果に「特定保健指導の対象」と書いてあっても、何をすればいいかわからずそのままにしている方も多いのではないでしょうか。

健診で対象者と判定されたら、加入している健康保険組合や協会けんぽに問い合わせると、利用方法を案内してもらえます。まず一度確認してみることをおすすめします。

社会全体の損失は、個人の選択の積み重ね

1兆円超という数字は、遠い話に聞こえるかもしれません。でもその中身は、一人ひとりの「今日の食事」「今週の運動量」「健診結果を見てからの行動」の積み重ねです。

食べ過ぎを見直すことは、自分の体を守るだけでなく、社会保障の持続可能性にもつながっています。個人の食べ方の選択と、社会全体の医療費は、思っているより近いところにあります。

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📝 この記事のまとめ

  • 特定健診の対象者は約5,192万人、そのうち特定保健指導の対象は約512万人
  • 指導を完了しているのは約135万人(26.5%)で、約377万人は受けていない
  • メタボ該当者・予備群が全員脱メタボした場合、年間約1兆1,500億円の医療費抑制が試算されている
  • 特定保健指導は多くの場合、被保険者本人の負担ゼロで受けられる制度
  • 個人の食べ方の選択は、社会全体の医療費とつながっている

参考:厚生労働省「2022年度特定健康診査・特定保健指導の実施状況」/第一生命経済研究所「脱・メタボがもたらす医療費抑制のインパクト」(2023年)/NECソリューションイノベータ「医療費削減」コラム

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