低体重を考える(全3回)|第2回
20〜30代女性の5人に1人が「やせ」。その多くは“思い込み”から始まる
前回は、若い世代と高齢世代の「やせ」がまるで別物だという話をしました。今回はそのうち、若い世代に焦点を当てます。特に日本の若い女性のやせは、世界的に見てもかなり特殊な状況にあります。そして問題の入り口は、体重そのものより「自分の体型をどう捉えているか」にあるのかもしれません。
20〜30代女性の約2割が「やせ」
厚生労働省の令和5年国民健康・栄養調査によると、BMI18.5未満の「やせ」に該当する女性は、全体では12.2%。ところが20〜30代の女性に限ると20.2%にのぼります。およそ5人に1人という割合です。
20.2%
20〜30代女性のうち「やせ(BMI18.5未満)」の割合
(令和5年 国民健康・栄養調査) 20〜30代女性 5人に約1人がやせ
この「約2割」という数字は、肥満が社会問題になっている欧米の国々と比べても突出して高いことが、国立成育医療研究センターなどから指摘されています。日本は、若い女性のやせが公衆衛生上の課題になっている、世界でも珍しい国なのです。
本当の問題は「やせていることに気づかない」より、その逆
ここで一番おさえておきたいのは、数字そのものより「認識のずれ」です。客観的にはやせている、あるいは標準的な体格なのに、「自分はまだ太っている」と感じてさらに体重を減らそうとする——この思い込みが、若い世代のやせの大きな出発点になっています。
古い調査のため参考程度になりますが、やせている女性のうち1割以上が、さらに体重を減らそうとしていたという報告があります。また学術機関の報告では、中高生の女子の約7〜8割が「やせたい」という願望を持っているとされています。つまり、やせている・やせていないにかかわらず「もっとやせたい」という認識が広く共有されている。これは個人の意志の弱さや性格の問題ではなく、社会全体に行きわたった空気のようなものです(その背景は第3回で扱います)。
「身長から体重を引いた数字の大きさを競う」「標準よりさらに細い体格を理想とする」——こうした”やせを競う物差し“が広まっていますが、これらは健康の基準ではなく、見た目の理想を数値化したものにすぎません。前回お話しした通り、数字は文脈なしに健康を保証しません。物差しを増やすことと、健康に近づくことは別の話です。
やせが静かに奪っているもの
「やせていれば、とりあえず健康面は大丈夫」という思い込みは、残念ながら正確ではありません。極端なやせや、それを支える食事の偏りは、体にいくつもの影響を及ぼします。
①月経・ホルモンの乱れ
エネルギーが慢性的に足りないと、月経が止まったり不順になったりすることがあります。
②骨の弱り
若い時期に十分な骨量を蓄えられず、将来の骨粗しょう症のリスクにつながります。
③貧血・冷え・疲れやすさ
必要な栄養が満たされず、日々の体調や集中力にも影響することがあります。
④免疫・回復力の低下
低栄養の状態が続くと、体を守る力や治す力が落ちやすくなります。
影響は、次の世代にまで届く
もう一つ、見落とされがちな点があります。妊娠前のやせが、生まれてくる子どもの健康にも関わるということです。
国立成育医療研究センターの研究グループは、過去の研究を統合した解析から、妊娠前に低体重(BMI18.5未満)だった母親では、出生体重が平均で約115グラム低くなることを報告しています。日本は2,500グラム未満で生まれる「低出生体重児」の割合がおよそ10%で、7%前後の欧米の先進国より高く、その背景の一つに若い女性のやせがあると指摘されています。
さらに、小さく生まれた子どもは、成人後に高血圧や糖尿病などの生活習慣病にかかりやすいと考えられています。これは「DOHaD(生活習慣病胎児期発症起源説)」と呼ばれる考え方で、あくまで仮説として研究が進んでいる段階ですが、世界的に注目されています。やせの影響が、本人の世代だけで完結しない可能性がある、ということです。
注意点としてこれは「やせている方を責める」話ではない、ということです。むしろ「やせていれば安心」という思い込みが社会に広く共有されているために、リスクが見えにくくなっている。気がつくチャンスがないまま来てしまっただけのことが多いのです。
やせは「達成」ではなく、ときに「サイン」
体重が減ることは、必ずしもゴールの達成ではありません。それが偏った食事や慢性的なエネルギー不足の上に成り立っているなら、月経や骨、将来の妊娠、そして次の世代にまで関わる「サイン」かもしれない。まずは「やせていれば健康」という前提を一度ほどいてみること。そこから、自分の体格を健康という物差しで見直す余地が生まれます。
では、これほど広く共有された「やせたい」という空気は、どこから来たのでしょうか。次回は視点を社会に広げ、各国が「痩せ礼讃」をどう見直し始めているか——法律まで作って対応している国の動きから、考えてみます。
📄 次回(第3回)
「痩せていれば美しい」を、国が見直し始めた——やせ礼讃と政策の話
やせは本当に“個人の選択”なのか。海外の規制から環境の側を考えます。
📝 この記事のまとめ
- 20〜30代女性の約2割がやせ(BMI18.5未満)で、欧米と比べ突出して高い
- 問題の入り口は体重そのものより「太っていると思い込む」認識のずれ
- 極端なやせは月経・骨・貧血・免疫などに影響しうる
- 妊娠前のやせは出生体重を下げ、次世代の健康に関わる可能性(DOHaDは仮説段階)
- やせは「達成」ではなく、ときに体や食事の「サイン」
参考:厚生労働省「令和5年 国民健康・栄養調査」/国立成育医療研究センター「妊娠前の女性の『やせ』が出産時の母子の健康に影響」(2026年)/厚生労働省 e-ヘルスネット「若い女性の『やせ』と健康・栄養問題」/慶應義塾大学保健管理センター 報告

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