低体重を考える(全3回)|第3回
「痩せていれば美しい」を、国が見直し始めた——やせ礼讃と政策の話
前回まで、若い世代のやせの多くが「もっとやせたい」という気持ちから始まること、そしてその気持ちが社会に広く共有されていることを見てきました。最終回は、その”空気”そのものに目を向けます。やせは本当に「個人の選択」なのでしょうか。実は、それを社会の側の問題として捉え、法律まで作って対応している国があります。
フランスは「痩せすぎモデル」を法律で規制した
2017年、フランスで「痩せすぎモデルの起用」を規制する法律が施行されました。国内で活動するモデルには、BMIが基準を下回っていないことだけでなく、全体として健康であることを医師が証明する診断書の提出が義務づけられています。さらに、体型を細く見せるよう加工した画像には、その旨の注記をつけることも必須になりました。基準を満たさないモデルを雇った事業者には、罰金や禁錮といった罰則が科される可能性があります。
注目したい点は、その目的です。フランスの保健当局は、モデル自身の健康を守るだけでなく、「達成できない美の基準が広まることを防ぎ、若い世代の拒食症を防ぐ」ことを狙いとして掲げました。つまり、やせの問題を「個人の自己管理」ではなく「社会が発信する身体イメージの問題」として扱ったわけです。 フランスの規制(2017年施行)の柱 健康の証明 モデルに医師の 診断書を義務化 加工の明示 細く加工した画像に 注記をつける 雇用側に責任 基準を守らない 事業者に罰則 目的:達成できない美の基準を広げない/若い世代の拒食症を防ぐ
こうした動きはフランスだけではありません。スペインやイタリア、イスラエルなども、痩せすぎのモデルに関する規制に踏み出しています。やせ礼讃を見直す流れは、複数の国で広がってきました。
背景にある事実
フランスの規制が紹介される際、拒食症などの摂食障害が15〜24歳の年齢層では交通事故に次いで2番目に多い死因である、という点がたびたび挙げられます。「やせ」は、若い世代にとって決して小さな問題ではないのです。
なぜ「環境」を問うのか
「やせるかどうかは本人の問題」と片づけてしまうと、見えなくなるものがあります。私たちが日々目にする身体イメージ——広告、SNS、加工された写真——が、「これくらい細いのが普通」という感覚を静かに形づくっている。各国の規制は、その環境の側に手を入れようとする試みです。個人を責める前に、まず「やせを煽る情報があふれていないか」を問う。これは、やせを個人の弱さの話にしないための、大切な視点の転換です。
この連載の最初に、肥満による経済的損失は試算できても、やせによる損失はきれいな金額として出てこない、という話に触れました。けれど、お金に換算されていないことは、損失がないことを意味しません。各国はすでに「やせ礼讃は若い世代を危険にさらす」と判断し、法律という形で動いている。測られていないだけで、見過ごしてよい問題ではないのです。
私たちにできること
大きな話に聞こえるかもしれませんが、できることは身近にあります。煽られないために、少し距離を取るだけでも違います。
日々の暮らしの中で
・加工された写真は「加工されている」と前提に置いて眺める
・「もっと細く」を繰り返し勧めてくる情報からは、意識して距離を取る
・自分の体格は、見た目の理想ではなく健康という物差しで捉え直す
・体重が減ったとき、それが健やかな食事の上に成り立っているかを確かめる
「痩せていれば美しい」「やせていれば健康」。長く当たり前とされてきたこの感覚は、絶対のものではありません。現に、複数の国がそれを見直し始めています。やせを一括りにせず、世代によって意味が違うことを知り(第1回)、思い込みから始まるやせの実態を確かめ(第2回)、それを作っている環境にも目を向ける(第3回)。この三つの視点が揃うと、「やせ=安心」という思い込みから、自分の頭で体と向き合う余地が生まれます。物差しに振り回されるのではなく、物差しを使いこなす側に回るために。
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第1回:「やせ=健康」ではない——若い方と高齢の方の「やせ」は、まるで別物
第2回:20〜30代女性の5人に1人が「やせ」。その多くは“思い込み”から始まる
📝 この記事のまとめ
- フランスは2017年、痩せすぎモデルの起用を規制する法律を施行(健康診断書の義務化、加工画像への注記、雇用側への罰則)
- 目的は、達成できない美の基準を広げないこと、若い世代の拒食症を防ぐこと
- スペイン・イタリアなど複数の国でも同様の規制が進む
- やせは「個人の選択」だけでなく、社会が発信する身体イメージの問題でもある
- 金額に換算されていなくても、見過ごしてよい損失ではない
参考:フランス保健省による痩せすぎモデル規制法(2017年施行)に関する報道(AFP通信ほか)/厚生労働省「健康日本21(第三次)」/厚生労働省 e-ヘルスネット「若い女性の『やせ』と健康・栄養問題」

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