【前編】「大人の〇〇」は何が大人なのか――苦味は経験でおいしくなる

コンビニやスーパーで「大人の」と名前についた商品を見かける機会が増えました。大人のチョコレート、大人の辛口カレー、大人のプリン。

商品の共通点を整理していくと、一定の法則が見えてきます。

この記事の要点

  • 「大人の」を冠した商品は、子どもが苦手とする味をあえて強めている
  • 苦味と酸味を避ける反応は、毒や腐敗を知らせる生まれつきの防御反応
  • 味を感じる器官である味蕾の数は、乳幼児期に最も多いとされる
  • 苦い物を楽しめるようになる背景には、味覚の変化と食経験の積み重ねの両方がある

「大人仕様」の4つの型

「大人の」と冠された商品を分類すると、大きく4つの型に分かれます。

型手法例
味の刺激苦味・辛味・酸味を強め、
甘さを控える
カカオを増やしたビターな
チョコレート
成分洋酒、香辛料、燻製の香りを加える洋酒入りチョコ、
山椒や黒胡椒を使った菓子
食感硬さや粗さ、繊維感を残す粗挽き、ナッツや全粒粉の増量
見た目と価格黒や金を基調とした落ち着いた
包装、高めの価格
冠つき商品の多く

4つの型に共通するのは、子どもが苦手とする要素をあえて強めている点です。

子どもが苦味を嫌う理由は、本能にある

苦味や酸味を子どもが嫌うのは、わがままではありません。生きるための防御反応です。

味には、体に情報を伝える役割があります。

味伝える情報体の反応
甘味エネルギー源となる糖の存在好む
塩味体に必要なミネラルの存在好む
うま味たんぱく質の存在好む
酸味腐敗しているかもしれない避ける
苦味毒があるかもしれない避ける

甘味・塩味・うま味は「食べてよい」の合図、酸味と苦味は「危険」の合図です。乳幼児が苦い物を吐き出す反応は、体を守るための働きといえます。

さらに、味を感じる器官である味蕾(みらい)の数にも、年齢による違いがあります。

時期味蕾の数の目安
乳幼児期約1万個
成人約5,000〜7,500個
高齢期約3,500個

味蕾の数は人種・年齢・栄養状態によって幅があり、上記は目安として広く紹介されている値です。

味蕾の数が多いほど味の刺激を強く受け取るとされ、同じ食べ物でも子どもは大人より強く感じていると考えられています。

加えて、苦味を感じ取る力には生まれつきの個人差もあります。同じ年齢でも、ピーマンやコーヒーへの反応が一様でない理由です。

経験が「危険」を「ごちそう」に変える

大人になってコーヒーやビール、山菜を好むようになる変化は、味覚が鈍ったからだけでは説明できません。

  • 食べても害がなかった経験を、くり返し積み重ねる
  • 苦味の後に来る香りや余韻を、感じ取れるようになる
  • 味蕾の数が減り、刺激そのものがやわらぐ

3つの変化が重なることで、かつて危険信号として受け取っていた味を楽しめるようになります。

「大人の〇〇」の正体

食の経験を積んだ方が楽しめる味、という意味に近いものです。子どもには食べにくい味を指す、という理解でおおむね合っていることになります。

好き嫌いを叱る前に

子どもが野菜を嫌う場面で、しつけの問題として叱る必要はありません。体の仕組みとして自然な反応です。

有効とされるのは、無理強いではなく次のような工夫です。

  • 少量ずつ、くり返し食卓に出す
  • だしやうま味と組み合わせ、苦味をやわらげる
  • 大人がおいしそうに食べる様子を見せる

次回は、食品メーカーが「大人化」に力を入れる理由を、市場の数字から取り上げます。

参考
東京医科歯科大学「味覚障害と食生活 ~食生活のひと工夫~」/日本うま味調味料協会「うま味の生理学」/ヤマキ「子どもの味覚を育てよう!味覚の発達とうま味の関係」

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