連載:情報とどう付き合うか(全3回) 第1回
食べ過ぎは体によくない。野菜は摂ったほうがいい。夜遅くの食事は控えめに。
――このあたりを知らない方は、おそらく一人もいません。
しかし実際、食べ過ぎるし、野菜は足りないし、夜は遅い。これはいったいどういうことなのでしょうか。
情報を足しても、行動は動かない
健康や栄養の分野には、昔から知られている一方であまり気持ちのよくない事実があります。知識を提供するだけでは、行動はほとんど変わらないということです。
これは直感に反します。知らないから、できない。だったら教えればいい。そう考えたくなる。けれど実際には、情報を渡した量と行動が変わる量は、まったく比例しません。
ここを最初にはっきりさせておきたいのですが、これはあなたの意志が弱いという話ではありません。知識と行動のあいだに距離があるのは、人間がそういうつくりだからです。
むしろ逆で、「知っているのにできない自分はダメだ」と思うことのほうが、実害があります。自分を責めるのはエネルギーが必要で、そのエネルギーは本来、別の場面で使ったほうがいい。
知識と知恵を分ける
そこで、この連載では言葉を分けて使います。
| 知識 | 知恵 | |
|---|---|---|
| 中身 | 事実のストック | 自分の生活で一度試して、確かめたもの |
| 例 | 「食物繊維の目標量は◯g」 | 「私は汁物に入れる方式なら続く」 |
| 手に入れ方 | 読む・聞く | 小さく試す |
| 行動への効き方 | 弱い | 強い |
知識は、外から受け取れます。検索すれば出てきますし、いまならAIに聞けば数秒で返ってきます。事実は、もう無限に、ほぼ無料で手に入る時代です。
けれど知恵は、外から受け取れません。自分の生活のなかで一度動かしてみないと、手に入らない。ここが決定的な違いです。
効くのは、小さな試行と、環境。
では、どうやって知恵に変えるのか。方法はそれほど多くありません。
- 小さく試す――「1週間だけ、夕食に汁物をつける」くらいの大きさで試す。大きく変えようとすると、続かなかったときに全部が失敗になります。
- 意志ではなく環境で解く――毎日思い出さなくても済む形にしておく。判断の回数が減るほど、続きます。
- 結果を自分で見る――他人のデータではなく、自分の体調や数値がどう動いたか。ここではじめて、知識が知恵に変わります。
試した結果、続かなかったとしても、それは失敗ではありません。「私にはこの方法は合わない」という、立派な知恵がひとつ増えています。
なぜ、今この話なのか
栄養の情報は、これ以上ないほど手に入りやすくなりました。それ自体はいいことです。ただ、事実がいくらでも手に入るようになった結果、希少なのは事実ではなく、それを自分の生活で動かす部分のほうになりました。
知識は、貯めても効きません。使って、確かめて、はじめて効きはじめるのです。
まとめ
知っているのに変えられないのは、人間がそうできているからです。責める必要はありません。必要なのは、知識を増やすことではなく、小さく試して、自分の知恵に変えていくこと。そして、日々少しずつ更新される知識と向き合うことなのです。
次回:常識は更新される

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