骨と筋肉、ふたつの積立――「積み立てられる栄養」はあるのか

連載:栄養は積み立てられるのか(全3回) 第1回

年金だけでは足りないかもしれない。だから確定拠出年金やNISAで、少しずつ積み立てておきましょう。ここ数年、そのような話をよく聞くようになりました。医療分野をみてみると、病院の統合や再編が進み、自宅で療養するという流れが強まっています。要するに、これからは自分で備える部分が増えていくということです。

では、栄養はどうでしょうか。お金のように「積み立てておく」ことはできるのでしょうか。3回に分けて考えてみます。

骨は、はっきりと積立型

いちばん分かりやすいのが骨です。厚生労働省のe-ヘルスネットは、骨量について次のように説明しています。成長期に増加して20歳頃に最大骨量に達し、その後は比較的安定に推移したあと、加齢にともなって減少していく。特に女性は、閉経にともなって骨量が減少しやすくなる、と。

出典:厚生労働省 e-ヘルスネット「骨粗鬆症の予防のための食生活」

つまり骨には、はっきりとしたお金で言う元本があります。20歳頃までに積み上がった最大骨量が、その後の長い下り坂の出発点になる。積立という言葉が、これほどそのまま当てはまる例も珍しいと思います。

ただ、ここで少し立ち止まりたいのです。骨量がいちばん増えるのは、成長期です。そして――60歳の骨密度のことを考えている中学生は、おそらくごく少数でしょう。

骨の元本がつくられる時期と、骨のことを考えられるようになる時期は、そもそもずれています。これは誰かの努力不足ではなく、人間の発達段階がそうなっている、というだけの話です。

だから、今の骨密度の数値は、今のあなたの生活の通信簿ではありません。数値が思わしくなかったとしても、それは「これまでの過ごし方の採点結果」ではない。ここは、はっきりお伝えしておきたいところです。

筋肉は、積立の再開ができる

一方、筋肉は少し性質が違います。筋肉量も加齢とともに減っていきますが、骨との決定的な違いは、あとから積み増しができることです。骨の最大骨量は成長期にほぼ決まってしまいますが、筋肉は年齢を重ねてからでも、負荷をかければ応えてくれます。

筋肉
元本が決まる時期成長期〜20歳頃はっきりした締切がない
あとからの積み増し難しいできる
できること減り方をゆるやかにする積み直す・維持する

お金の積立とは、ここが違います。NISAは何歳から始めても、始めた分だけ増えていく。けれど栄養の積立は、投資に適した時期が限られているもの(骨)と、いつでも始められるもの(筋肉)が混在している。同じ「積立」でも、性質がまるで違うのです。

日本の健康の物差しも、骨を見ている

2024年10月に公表され、2025年度から使われている「日本人の食事摂取基準(2025年版)」では、生活習慣病などとエネルギー・栄養素の関連を扱う章に、新たに骨粗鬆症が加えられました。これまで高血圧・脂質異常症・糖尿病・慢性腎臓病(CKD)が並んでいたところに、骨が入ったということです。

出典:厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会報告書

骨は、ずっと先の話に見えて、実は国の基準がわざわざ章を立てるくらいには、いま考えるべきテーマになっているわけです。

骨に刺激を与える運動については、e-ヘルスネットが、ウォーキングやジョギングのような重力のかかる運動が効果的と説明しています。今日からでも始められる部分はあります。


まとめ

栄養にも、たしかに積み立てられるものがあります。ただしその積立には、お金の積立にはない締切のあるものいつでも始められるものとで混在しています。まずはここを分けて考えるところからだと思います。

そして次に浮かぶのが、逆の問いです。――積み立てられない栄養素は、あるのでしょうか。

次回:毎日の掛け金でしか払えないもの

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